海外ラッパーが人気を失った後の6段階|音楽制作者が学ぶべき「資産化」の視点

この記事では、ラッパーの人気低下後のキャリアパスを解説した動画の内容と、Rice Universityの公式発表などの公開情報をもとに、MASTER SOUND編集部が日本語に翻訳して解説しています。
「人気を失うこと」と「収入を失うこと」は同じではない
音楽業界では、かつて大きな注目を集めたアーティストが、ストリーミング数やライブ動員、SNSでの話題性を失っていく過程がよく語られます。ある解説動画では、こうした過程を6つの段階として整理していますが、ここで押さえておきたい前提が一つあります。それは、「以前ほど文化的に注目されなくなること」と「実際に収入がなくなること」は別問題だという点です。
過去に大ヒット曲を持つアーティストであれば、現在の人気が落ちていても、その楽曲からストリーミング収益、著作権収入、出版収入が入り続ける可能性があります。つまり「人気が落ちる=すぐに無収入になる」とは限りません。この前提を踏まえた上で、6つの段階を見ていきます。
なお、以下で紹介する個々のアーティストのエピソードには、動画制作者自身の評価や解釈が含まれている部分もあるため、「確認できる事実」と「動画内での紹介・解釈」を区別しながら整理します。
第1〜2段階:焦り
「まだ終わっていない」と考え続ける焦りの段階
最初の段階は「Denial(否認)」です。人気が落ち始めても「自分はまだ人気がある」「昔と何も変わっていない」と考え続ける状態を指します。動画では、こうした心理状態の例として特定のアーティストの名前が挙げられていますが、ここで本質的なのは個別の人物の是非ではなく、「過去の成功時の自分」と「現在の自分」の差を認識することの難しさそのものです。
こうした心理は、ストリーミング再生数の水増しなど、数字を実態以上に見せようとする行動にもつながりやすいとされています。しかし、ストリーミング数だけが大きくてもライブ会場に人が集まらない状況が生まれれば、オンライン上の人気と現実の人気とのズレが表面化してしまいます。
収入のためにできることを何でもやる焦りの段階
次の段階は「Desperation(焦り)」です。以前なら受けなかったような仕事にも積極的に取り組むようになる段階で、動画ではファン向けの有料コンテンツ提供や、他アーティストの楽曲へのフィーチャリング参加といった例が紹介されています。ファン向け動画、SNS広告、ブランド案件、ゲーム関連の広告出演なども含まれます。
これは現代のクリエイター経済を考える上で興味深いポイントです。かつては「音楽を作る→CDを売る→ライブをする」という比較的シンプルなモデルが中心でしたが、現在はアーティスト本人の知名度そのものを商品化できる時代になっています。音楽そのものだけでなく、「ファンとの関係性」自体が収益源になるということです。
第3〜4段階:海外進出とブランド再構築
需要が均一ではないことを利用する海外進出
自国内でライブを満員にできなくなると、次に選ばれやすいのが海外公演です。アメリカの人気アーティストは自国で頻繁にライブを行いますが、ヨーロッパなど海外のファンは同じアーティストを見る機会が少なく、「久しぶりに来てくれた」という盛り上がりが生まれやすくなります。これは、人気は世界中で均一に落ちるわけではないことを示しています。ただし動画制作者はこれを「問題の先送り」とも位置づけており、海外でも最終的に需要が落ちれば、次の段階へ進むことになるとしています。
音楽以外の市場へ能力を移植するブランド再構築
海外展開でも状況が改善しない場合に出てくるのが「Rebranding(ブランド再構築)」です。YouTuberへの転身、Twitch配信、ポッドキャストの開始、新しいキャラクターの構築などが挙げられます。
象徴的な例として紹介されているのがBun Bです。Bun Bは音楽活動だけに固執するのではなく、ヒップホップメディアや教育分野へと活動の軸を広げました。実際にライス大学では、宗教学のAnthony Pinn教授とともに「Religion and Hip Hop Culture(宗教とヒップホップ文化)」という講義を共同で担当しており、2015年にはオンライン講座(MOOC)としても展開されています。これは「人気が落ちたから仕方なく別の仕事をする」というより、音楽活動で身につけた能力を別の市場へ移植するという前向きな選択として捉えることができます。
第5〜6段階:ノスタルジアと受容
「昔のファン」はもう同じ人間ではないというノスタルジアの罠
再ブランディングがうまくいかない場合に出てくるのが「Nostalgia(ノスタルジア)」です。昔の音楽スタイルに戻る、過去のヒット曲の続編を作る、昔の仲間と再結成する、といった戦略で、動画ではT-Wayne、Trippie Redd、Wiz Khalifaなどが例として挙げられています。
マーケティングとしては理解しやすい手法ですが、問題は昔のファンが今も同じ人間ではないということです。10年前に18歳だったファンは、今では28歳になり、音楽の好みも生活も価値観も変化しています。「昔売れたものをもう一度出せば、同じように売れる」とは限らないのです。
過去の栄光と自分を切り離す受容の段階
最後が「Acceptance(受容)」です。「自分は一度成功した。それは素晴らしいことだった。でも人生は次へ進む」という考え方に至る段階で、動画では音楽以外の仕事に就いたアーティストの例が紹介されています。ここで重要なのは、普通の仕事をすること自体は人間としての失敗ではないという点です。むしろ過去の栄光にしがみつくのではなく、今の自分に必要な収入を得るという現実的な判断とも言えます。
音楽以外の道を見つけた人物として、テクノロジー分野へ展開したMims、不動産やテレビなど幅広い事業を展開するVanilla Ice、教育分野に進んだBun Bなどが挙げられています。Vanilla Iceは現在も音楽活動を続けており、公式サイトでは2026年発表の新EPの情報も確認できます。「一度売れた→人気が落ちた→終了」ではなく、音楽活動を別の人生・ビジネスへ接続できるということです。
音楽ビジネスとして見る、本当に重要なテーマ
この6段階から見えてくる最も重要なメッセージは、単純な「ラッパーの没落ランキング」ではありません。それは、「人気」「収入」「キャリア」は別物であるという視点です。
人気からストリーミング、ライブ動員、収入へとつながる流れは、決して単純な一本道ではありません。過去のヒット曲を持つアーティストなら、現在の人気が落ちてもカタログ収入が残る可能性があります。逆に、現在SNSで話題になっていても、長期的な楽曲資産がなければ、ブームが終わった瞬間に収入が失われる可能性もあります。したがって重要なのは「今どれだけ有名か」だけでなく、「人気がなくなっても何が残るか」です。
音楽制作者にとっての収益源は複数ある
アーティストや音楽制作者には、次のような複数の収益源があります。
- 作品資産
- 著作権・出版権
- カタログ
- ファンベース
- ブランド
- 映像・SNSコンテンツ
- ライブ活動
- 音楽以外の事業
人気絶頂期に「ライブだけ」「SNSだけ」に依存していると、その人気が失われた瞬間に収益全体が崩れてしまいます。一方、過去の作品を資産として蓄積し、そこから長期間にわたって収益を得られる仕組みを作っておけば、状況は大きく異なります。
これはラッパーに限った話ではなく、作曲家、BGM制作者、サウンドクリエイター、映像クリエイターにも共通する考え方です。特にストック型の音楽ビジネスでは、「今バズっているか」よりも、「10年後にも使われる作品をどれだけ持っているか」という視点がより重要になります。
MASTER SOUNDが考える「資産としての音楽制作」
MASTER SOUNDでBGMライセンスやビート販売に取り組む中でも、この視点を大切にしています。一曲一曲の再生数や瞬間的な話題性だけを追うのではなく、著作権譲渡・商用利用可の条件を明確にしたうえで、企業や制作者に長く使い続けてもらえる楽曲を作ること。それが、短期的な流行に左右されにくい、安定した音楽活動の土台になります。
「今の流行に乗った曲」を作ることと、「何年も使われ続ける曲」を作ることは、必ずしも矛盾しません。ただ、後者を意識して制作・権利設計を行うかどうかで、数年後に手元に残るものは大きく変わってきます。楽曲の権利関係やライセンス設計についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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参考資料:登場した楽曲・アーティストの一覧
| 楽曲・人物 | 概要 | 本記事との関係 |
|---|---|---|
| J. Cole「1985」 | 若手ラッパーへ向けたメッセージ性の強い楽曲 | 若さゆえの一時的な成功と将来的な世代交代というテーマの例として言及 |
| Roddy Ricch「The Box」 | 大ヒット曲。公式サイトでも関連作品を確認可能 | 大ヒット曲を持つアーティストがカタログ資産を持つ例として言及 |
| Mims「This Is Why I’m Hot」 | 2007年アルバム『Music Is My Savior』収録曲 | 音楽以外のテクノロジー分野へ展開した例として言及 |
| Vanilla Ice「Ice Ice Baby」 | 代表曲。公式サイトで現在も活動継続中、2026年に新EP『Now & Forever』を発表 | 音楽以外にも不動産・テレビ等へ活動領域を広げた例として言及 |
| T-Wayne「Nasty Freestyle」 | 過去のバイラルヒット曲 | 過去のヒットを再利用しようとする「ノスタルジア」の例として言及 |
| Trippie Redd「A Love Letter to You」シリーズ | 継続的にリリースされているシリーズ作品 | 過去のシリーズを継続してファンとの接点を維持する例として言及 |
| Wiz Khalifa「Kush & Orange Juice 2」 | 過去の人気作の続編 | 旧来のファンを呼び戻そうとする例として言及 |
| Bun B / Anthony Pinn「Religion and Hip Hop Culture」 | ライス大学で開講された講義。2015年にオンライン講座(MOOC)としても展開 | 音楽活動で得た知名度・能力を教育分野へ移植した例 |
本記事は、ラッパーの人気低下後のキャリアパスを解説した動画の内容と、Rice Universityの公式発表などの公開情報をもとに、MASTER SOUND編集部が音楽制作者・BGM制作者向けに再構成したものです。







