豪ARIAがAI楽曲をチャート除外に。音楽制作者が知っておくべき6つの権利論点

ある大ヒットカバー曲が突きつけた問い

2026年、オーストラリアのある楽曲がラジオとストリーミングで大きな支持を集めました。Madonnaの名曲「Like a Prayer」のカバーで、Spotifyだけで4,800万回以上再生され、公式チャートでも上位に食い込むヒットとなりました。

ところが後になって、このカバーのボーカルとドラムがAIによって生成されていたことが判明します。リスナーの多くは、それを知らずに「良い曲だ」と感じて聴いていました。

ここで一つの問いが浮かび上がります。

曲が良ければ、それを誰が(何が)作ったかは関係ないのか?

この問いに対して、オーストラリアの音楽業界団体ARIA(Australian Recording Industry Association)は一つの答えを出しました。2026年8月、ARIAはチャート運用規定を改定し、AIが主要な創作部分をすべて担った「完全AI生成」の楽曲を公式チャートおよびARIA Awardsの対象外とすると発表したのです。この規定は8月28日以降のチャートから適用されています。

重要なのは、AIの使用そのものを禁じたわけではないという点です。ARIAが線を引いたのは、「AIが音楽を作った作品」と「人間が主体となり、AIを補助的に使った作品」の間でした。ボーカルや主要な楽器演奏を人間が担っている作品は、AIアシスト技術(作曲支援、ミキシング、ステム分離など)を使っていてもチャート対象になり得ます。逆に、歌詞・作曲・歌唱・演奏のすべてをAIが生成したような作品は対象外になります。

「AIを使った曲」と「AIが作った曲」は別物

この線引きは、今後の音楽制作を考えるうえで非常に実務的な示唆を持っています。整理すると、次の3パターンに分けられます。

  • 完全AI生成:プロンプト入力だけで作曲・歌詞・ボーカル・演奏・アレンジまでAIが完結させるもの
  • AIアシスト創作:作曲・歌唱・主要演奏は人間が行い、一部の工程でAIを補助的に使うもの
  • AI制作技術の活用:AIマスタリング、ステム分離、AIドラム音源、AIエフェクト処理など、人間が中心となる制作プロセスの中で技術として使うもの

ARIAの基準に照らすと、後者2つは基本的にチャート資格を保てます。つまり業界が問うているのは「AIを使ったかどうか」ではなく、「創作の中心に人間の判断・演奏・表現が残っているかどうか」だということです。

これは著作権の話であると同時に、リスナーの信頼、アーティストの収入機会、そして「音楽が人間の経験や感情から生まれるものだ」という文化的な価値観をどう守るかという、より大きな問題ともつながっています。実際、今回の規定改定の背景には、AI企業が許諾なく学習した音源から生成された楽曲が、人気プレイリストの再生時間を少しずつ奪っていくという懸念もあります。ヒット曲を丸ごと置き換えるのではなく、日常的に流し聴きされるBGMやアンビエント系の枠を静かに侵食していく——これは今、世界中の音楽産業が注視しているテーマです。

音楽制作者が今から押さえておきたい6つの論点

ここから先は、実際に楽曲を作る立場——配信アーティスト、企業BGMの制作者、ゲーム・映像向けの楽曲を手がけるクリエイター——にとって、より実務的な内容です。ARIAの規定改定をめぐる議論の中では、単なる「AI可否」の線引きだけでなく、音楽制作を取り巻く権利や仕組み全体をどう設計し直すかという論点が浮かび上がっています。今後、他国のチャートやプラットフォームでも同様の基準が広がっていく可能性を踏まえ、6つに整理して解説します。

1. 適切な著作権処理

既存の楽曲やアーティストの音源を、無断でAIに学習させたり、生成物に組み込んだりしないこと。カバー曲やサンプリングを含む制作では特に、原盤権・著作権の許諾関係を明確にしておく必要があります。権利処理が曖昧なまま配信・納品してしまうと、後から楽曲が削除されたり、チャート対象から除外されたりするリスクがあります。

2. 学習データのライセンス

AIツールを使う場合、そのAIが「何を学習して」「誰の許可を得て」学習データを構築したのかは、これまで以上に重要な判断材料になります。無許諾のデータで学習されたAIサービスを使った制作物は、たとえ人間が中心となって仕上げていても、将来的に権利トラブルの火種になり得ます。使用するAIツールの学習データポリシーを確認する習慣を持つことが、制作者自身を守ることにつながります。

3. アーティストの同意(オプトイン方式)

動画内で提案されている考え方として、「アーティストが拒否しない限りAIが声や作風を使ってよい」というオプトアウト型ではなく、「本人が明確に許可した場合のみ使用できる」というオプトイン型の仕組みが挙げられています。自分の声・歌唱スタイル・キャラクター性をAI学習に使わせるかどうかを、アーティスト自身が選べる状態にすることが、今後の権利保護の基本になっていくという考え方です。

4. ロイヤリティ制度

声や作風、過去の録音の利用を許可する代わりに、AI企業側からライセンス料やロイヤリティを受け取る仕組み作りも論点の一つです。これが整備されれば、「AI対人間」という対立構造ではなく、対価を伴う形でAIと人間の創作が共存する関係を作れる可能性があります。

5. AI楽曲であることの表示

ARIAの新ルールでも、AIを使用した楽曲には使用の有無を開示することが求められています。リスナーや発注者が「これは誰がどこまで関わって作られた音楽なのか」を判断できる状態を保つことは、業界全体の信頼性に関わる問題です。企業からの受注制作においても、AI活用の有無や範囲を制作者側から明確に伝えることが、今後は取引上の信頼構築に直結していくと考えられます。

6. ストリーミング操作の防止

AIによる大量生成は、再生数の水増しや不正なストリーミング操作とも結びつきやすい問題です。ARIAが新ルールの条件として「ストリーム・チャート操作の懸念がないこと」を明記しているのも、この点を強く意識したものです。健全な形で音楽が評価される仕組みを維持するためには、AI活用の是非と同時に、不正な再生操作そのものへの対策も欠かせません。

これら6つはどれも単独の問題ではなく、互いに関連しています。制作者個人がすべてを解決することはできませんが、少なくとも「自分が使うAIツールの学習データや利用規約を把握する」「権利関係が明確な音源・素材だけを使う」「発注元に対してAI活用の有無を正直に伝える」という3点は、今すぐにでも意識できる実践的な対策です。

日本のクリエイターにとっての意味

この動きはオーストラリア国内の話にとどまりません。IFPI(国際レコード産業連盟)が主導する形で、世界の主要チャートが同様の基準を採用しつつあると報じられており、日本の音楽・映像制作の現場にも無関係ではいられません。特に次のような方々にとって、実務上の論点になってきます。

  • 配信アーティスト:楽曲にAIを使う場合、どこまでを自分の創作として説明できるか
  • 企業のマーケティング担当者:BGMや店舗音源にAI生成音源を使う際、権利関係が明確か
  • VTuber・声優:自分の声や歌唱スタイルが無断でAI学習に使われるリスクをどう考えるか
  • ゲーム・映像クリエイター:納品する楽曲の権利処理が、将来的なプラットフォーム側の基準変更に耐えられるか

AIを使うこと自体が問題なのではなく、「誰が創作の中心にいて、誰が権利を持ち、それが対価とともに正しく処理されているか」が今後ますます問われる時代になっています。

MASTER SOUNDが大切にしていること

MASTER SOUNDでは、ミキシング・マスタリングからサウンドデザイン、企業BGM制作、アーティスト向けの楽曲制作まで、一貫して人間の判断と経験を制作の中心に置くことを大切にしています。AIベースの効率化ツールを否定するのではなく、あくまで人間のクリエイティブな意思決定を支える技術として活用する立場です。

また、法人・個人を問わず制作物の著作権譲渡・商用利用可を明確にご案内しているのも、上記の「適切な著作権処理」「AI楽曲であることの表示」といった論点を踏まえたものです。権利関係が曖昧な音源は、将来的にチャートやプラットフォームの基準変更によって不利益を被るリスクがあります。特に企業のブランド活用を前提としたBGM制作では、この点が選定の決め手になることも増えています。

  • オンラインミックス・マスタリングをお探しの方は、人間の耳と経験に基づく仕上げにこだわった制作をご提案します
  • 企業BGM・サウンドロゴをお探しの方は、権利関係がクリアな楽曲を、用途に合わせてご提供します
  • アーティストとして楽曲制作やビートを探している方は、あなたの表現を中心に据えた制作パートナーとしてサポートします

まとめ

今回のARIAの決定が投げかけているのは、「AIか人間か」という単純な対立構造ではありません。むしろ、AIが誰でも音楽を作れる時代だからこそ、「人間が創作の中心にいる音楽」に、どのような価値を与えるかという問いです。著作権処理、学習データのライセンス、アーティストの同意、ロイヤリティ、表示義務、そして不正操作の防止——これらは制作者一人ひとりが少しずつ意識を向けるべき論点であり、業界全体の信頼を支える土台でもあります。

MASTER SOUNDは、この問いに対して「人間の表現を、確かな技術と適切な権利処理で最後まで仕上げる」という形で応え続けていきたいと考えています。


本記事は、YouTube上で公開されたAIと音楽産業に関するインタビュー動画(https://www.youtube.com/watch?v=HYNhC3Am_i4)の内容と、ARIAの発表を含む複数の報道をもとに、MASTER SOUND編集部が独自にまとめたものです。