TikTok・Reelsで楽曲を広げる7つの発想転換|Jesse Cannonのマーケティング論

この記事では、音楽マーケティングに関する動画(話者:Jesse Cannon)の内容をもとに、MASTER SOUND編集部が日本語に翻訳して解説しています。
出典:7 MISTAKES Holding Musicians Back On Reels & TikTok(Jesse Cannon)
「音楽を宣伝する動画」から「送りたくなる動画」へ
TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsで楽曲を広めようとするとき、多くのアーティストは「いいね数」「フォロワー数」「再生回数」を気にしがちです。しかし、長年アーティストのマーケティング戦略に携わってきたプロデューサー・マーケティングストラテジストのJesse Cannonは、最も注目すべき指標としてシェア(共有)を挙げています。
友人から「これ、絶対好きだと思う」とTikTok動画が送られてきたとします。これは単なる「いいね」より強い行動です。相手があなたの好みを理解した上で推薦しているからです。つまり、音楽アーティストが考えるべき問いは「どうすればいいねされるか」ではなく、「どうすれば、この動画を誰かに送りたくなるか」だということです。
「この歌詞、今の自分そのもの」「このバンド好きなら絶対これ好き」「この動画、意味不明だけど面白い」——音楽そのものだけでなく、音楽を取り巻く共感・文化・笑い・感情を動画にすることが重要になります。
シェアされる理由はジャンルごとに違う
音楽ジャンルによって、ファンの行動パターンはまったく異なります。
つまり「音楽ジャンル=文化」として捉える必要があります。他ジャンルでバズった動画をそのままコピーするのではなく、「自分のジャンルでは何が共有されるのか」を研究することが重要です。
自分のジャンルで伸びている動画を「観察」する
具体的な実践方法として、自分と同じジャンルでSNS上で成功しているアーティストを5〜10組ほど探し、その人気動画について次のような点を観察することが挙げられています。
ここで重要なのはコピーではなく、構造を学ぶことです。
最初の1秒で指を止める「Thumb Stop」
ショート動画では、最初の一瞬が非常に重要です。これはThumb Stop(指を止める)と呼ばれています。視聴者はスマートフォンをスクロールしながら、ほぼ無意識に次々と動画を飛ばしています。そこで「ん?」と思わせて指を止める必要があります。
いきなり大きな音、一瞬だけ奇妙な映像、逆さまの映像、強烈な表情、急激なカメラ移動、グリッチ、普通ではない場所から始める——重要なのは高額な映像制作ではなく、「よくある音楽動画とは違う」と思わせることです。
「普通の音楽動画」はもう見慣れられている
「部屋でギターを持っている」→「この曲についてどう思う?という字幕」→「サビを歌う」という形式は、すでに大量に存在し、視聴者にとって見慣れたものになっています。この形式自体が悪いわけではありませんが、そこに「自分のジャンルらしさ」+「予想外の要素」を組み合わせることが重要です。例えばEDMなら、「EDMらしい音」に「普通ではない映像」を組み合わせる、といった具合です。つまり、文化への所属感×意外性という掛け算です。
動画構成は「And Then」ではなく「But Then」
動画の構成についても興味深い考え方があります。「And Then(そして次に)」型は、歌う→歌い続ける→少しカメラが動く→歌い続ける、というように大きな変化がありません。
一方「But Then(しかし、そこで予想外のことが起きた)」型は、歌う→カメラが引く→実は後ろに別のミュージシャンがいた→突然演奏が始まる、というように「次はどうなる?」という疑問を生み出します。音楽ショート動画では、この「次に何が起こるか」という要素が視聴継続の鍵になります。
曲は「イントロから」聴かせなくていい
音楽制作をしている人ほど見落としがちなポイントです。通常、曲を紹介するときはイントロ→Aメロ→Bメロ→サビという順番で聴かせようとします。しかしショート動画では、必ずしもその必要はありません。曲の0:00より1:17の方が圧倒的に面白いのであれば、そこから動画を始めても構いません。重要なのは「曲として正しい順番」ではなく、「視聴者が興味を持つ順番」です。
バズる部分は必ずしもサビではない
バズる部分は必ずしもサビとは限りません。8秒の歌詞、16秒のフレーズ、一言だけの歌詞、感情的な一節など、曲によって異なります。
例えば2026年2月にリリースされたオルタナティブ・ロック楽曲「Self Aware」(Temper City)はTikTok上で広がった事例として、同月リリースのカントリー・ロック楽曲「Empty Words」(Corey Kent)は、失恋や後悔をテーマにした歌詞がユーザー自身の体験と結びつきやすく、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を生みやすい構造の例として紹介されています。つまり、「一番音楽的に完成度が高い部分」=「SNSで一番使われる部分」とは限らないということです。
曲を「聴かせる」のではなく「使わせる」という発想
ショート動画で曲が広がる場合、「この曲を聴いてください」というアプローチだけでは弱いことがあります。それよりも、「この曲を使って自分の動画を作りたい」と思わせることが重要です。「この歌詞、自分の恋愛そのもの」と思わせられれば、ユーザーは自分の体験とその曲を組み合わせて動画を作ります。
これにより、アーティスト→視聴者という一方通行ではなく、アーティスト→視聴者→視聴者のコンテンツ→次の視聴者という連鎖が生まれます。これがUGCの強さです。
バズった動画は一度きりで終わらせない
普段1,000再生の動画が突然10,000再生されたとき、多くのアーティストは「このネタは一度使ったから次は別のことをしよう」と考えます。しかし推奨されているのは逆の考え方です。成功したなら、もう一度やる。ただし完全なコピーではなく、少しずつ形を変えて展開します。
これは「同じことを繰り返す」のではなく、ヒットの原因を再現するという考え方です。
フォロワーが飽きることをそれほど心配しなくていい理由
同じ形式を繰り返さない理由として「フォロワーに飽きられる」という懸念がよく挙げられます。しかしショート動画は毎回同じ人に届くわけではなく、むしろフォロワーではない人に大量に表示される可能性があります。そのため、成功したコンテンツを再利用することには合理性があります。
ただし完全に同じものだけを投稿するのではなく、次のような4本の「柱」を用意しておくと、ブランドを統一しながら単調さを避けられます。
アーティスト本人のアカウントだけに頼らない
楽曲を広める際、アーティスト本人のアカウントだけが重要とは限りません。映画編集アカウント、ファッション系アカウント、スケートボード系、ミーム系、ファン編集アカウントなど、さまざまなコミュニティに楽曲を組み合わせるという発想です。
例えば「この映画のこのシーンに、この曲を合わせたら最高だった」という動画は、広告というより「映画ファンのコンテンツ」に見えます。ここがポイントです。「僕の新曲です、聴いてください」ではなく、「この文化・映像・感情に、この曲がハマっている」という見せ方をすることで、広告っぽさを消すことができます。
日本の個人アーティストが今日から使える5つのパターン
「新曲配信しました、Spotifyで聴いてください」という投稿だけでなく、次のようなパターンで楽曲そのものではなく、楽曲から生まれる「体験」をコンテンツ化する方法が考えられます。
実務上の注意点
いくつか細かい実務上の注意点も挙げられています。
ただし、これらは動画の話者自身の経験則として捉えるべき部分もあります。特に「特定のリンク表現やハッシュタグが必ずリーチを下げる」といったアルゴリズムに関する断定的な見方は、プラットフォーム側の仕様変更によって変わり得るものです。最終的には、自分のアカウントのインサイト(分析データ)で検証することが重要です。
全体の流れを整理する
この内容を一つの循環として整理すると、次のようになります。
まとめると、「良い曲を作れば自然に広がる」から「良い曲が広がる理由を設計する」へ発想を変えることが、ショート動画時代の音楽マーケティングの核心だと言えます。
拡散の土台になるのは楽曲の完成度
どれだけ動画の見せ方を工夫しても、その入り口にある楽曲自体の音質や仕上がりが弱いと、せっかく「送りたくなる瞬間」を作れても、リスナーがその先で離れてしまう可能性があります。特にショート動画で使われる8秒・16秒といった短い一節は、音の輪郭やインパクトがそのまま第一印象を左右します。
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登場した人物・楽曲の一覧
項目 | 概要 | 本記事との関係 |
|---|---|---|
Jesse Cannon | プロデューサー、マーケティングストラテジスト。音楽マーケティング、SNS戦略、リリース戦略などを手がける | 本動画の話者 |
Temper City「Self Aware」 | 2026年2月15日リリースのオルタナティブ・ロック系シングル | バズる部分が必ずしもサビではない例として言及 |
Corey Kent「Empty Words」 | 2026年2月20日リリースのカントリー・ロック系シングル。失恋や後悔をテーマにした歌詞 | 歌詞がUGCを生みやすい例として言及 |
Ben Lapidus | Thumb Stop(冒頭で視聴者の指を止める演出)の実例として紹介されているアーティスト | 「最初に止める→予想外の展開→最後まで見せる」構造の教材として言及 |
本記事は、音楽マーケティングに関する動画(話者:Jesse Cannon)の内容をもとに、MASTER SOUND編集部が楽曲を広めたい個人アーティスト向けに再構成したものです。





