「プロっぽい音」はミックスでは作れない|AWAKENDが語る9つの制作哲学

この記事では、プロデューサーAWAKENDによる音楽制作・プロデュース講座の紹介内容をもとに、MASTER SOUND編集部がDTM初心者や音楽制作者向けに再構成したものです。
DTMでプロっぽい音にならない理由
ミックスの問題ではなく「作業する順番」の問題
メロディック・ベース制作を10年以上手がけ、Seven Lions、ILLENIUM、Au5、Jason Ross、HALIENEらの公式リミックスを担当してきたプロデューサーAWAKEND。彼が伝える制作哲学の核心は、「プロっぽい音にするには、ミックス技術だけでは足りない」という考え方です。
多くのプロデューサーは「なぜ曲がプロっぽく聞こえないのか」「なぜミックスが濁るのか」「なぜ音数を増やしても迫力が出ないのか」をミックスの問題だと考えがちです。しかしAWAKENDが指摘するのは、実際には「作業する順番」の問題であることが多いという点です。
最初からEQ、コンプレッサー、サチュレーション、リバーブ、マスタリングなどを駆使して音を整えようとしても、そもそも曲の構成や音選びが適切でなければ、根本的な改善にはなりません。そのためAWAKENDは、まず曲を書き、その後で音を整えるという順番を重視しています。ボーカルとシンセがぶつかっている場合、「EQでシンセを削ればいい」と考えるのではなく、「そもそもこのシンセをここで鳴らす必要があるのか」と考えることの方が本質的な解決になる、ということです。ミックス処理で問題を解決する前に、作曲・編曲の段階で問題を解決するという発想の転換が重要です。
DTMは音色選びが曲の半分を決める
もう一つの重要な主張が、Sound Selection(音色選び)は曲の半分を占めるという考え方です。これは特にEDMやメロディック・ダブステップで重要になります。
同じコード進行でも、柔らかいPad、太いSupersaw、明るいPluck、金属的なSynth、空間的なAtmosphereのどれを選ぶかによって、曲の印象は大きく変わります。音色そのものには、周波数バランス、ステレオ幅、アタック、リリース、倍音、ダイナミクスといった特徴が備わっています。そのため、後から大量のEQやエフェクトを使って「良い音」に加工しようとするよりも、最初から曲に合った音を選ぶ方が効率的だという考え方です。
「レイヤーを増やせば迫力が出る」は必ずしも正しくない
EDM制作では「音が足りないからレイヤーを追加しよう」という発想になりがちです。Supersawを5種類、Padを3種類、Pluckを4種類、というように音を重ねていく方法です。
しかしAWAKENDが指摘するのは、レイヤーを増やすほどプロっぽくなるわけではないという点です。むしろ重要なのは、少ないレイヤーでも、それぞれの音が明確な役割を持っていることです。例えば3つのシンセがあるなら、メインの存在感、中域の厚み、高域の輝き、というように役割を明確に分ける。何となく似た音を重ねると、音圧は上がっても「何が鳴っているのか分からない」「中域が混雑する」という状態になりやすいのです。
DTMでプロのサウンドに近づけるために必要なこと
「モノラルでの存在感」を意識する
「less layers and more mono presence(レイヤーを減らし、モノラルでの存在感を増やす)」という考え方も紹介されています。最近のEDMでは、ステレオ幅を広げることで「広い=豪華」という印象を作ることがあります。しかし、すべての音を左右に広げてしまうと、中央の存在感が弱くなってしまいます。
キック、スネア、ベース、リード、ボーカルなど重要な要素が中央にしっかり存在すると、音楽全体に芯ができます。つまり、「広げること」よりも「中央に何を置くか」が重要だということです。特にスマートフォンや小型スピーカーでの再生では、中央の情報が非常に重要な意味を持ちます。
オートメーションが「動き」を作る
AWAKENDが強調するもう一つのポイントがAutomation(オートメーション)です。曲がプロっぽく感じられる理由の一つは、音が常に同じ状態ではないことにあります。
フィルターを徐々に開く、リバーブ量を変える、音量を少し動かす、ステレオ幅を変化させる、ディレイを一瞬だけ加える、ドロップ前にサウンドを変化させる——こうした操作によって、同じコードや同じ音色でも、時間の経過とともに違う表情を持たせられます。オートメーションは「エフェクトをかけるための機能」ではなく「音楽を動かすための作曲要素」として捉えるべきだということです。
リバーブの使いすぎは「泥」を生む
一方で、空間系エフェクトには注意が必要です。特にリバーブを大量に使うと、音が遠くなる、中低域が重なる、音の輪郭がぼやける、各パートの境界が分からなくなる、といった問題が起きます。
原文では「reverb in excess is what creates mud(過剰なリバーブが泥を作る)」という表現が使われています。ここでいう「mud(泥)」とは、音楽制作の文脈では音が濁っていて何が鳴っているのか分かりにくい状態を指します。特にメロディック・ベースは、Sub Bass、Mid Bass、Lead、Vocal、Pad、Stringsなど多くの音域が重なるジャンルであるため、リバーブを適切に管理しないと一気に音像が曖昧になってしまいます。
DTMで最も大切なポイント2選
「曲を始める人」ではなく「曲を完成させる人」になる
制作活動そのものについて、最も重要な指摘の一つが、「プロになるために重要なのは、曲を始めることではなく完成させること」という部分です。
DTMでは新しいアイデアを作ること自体が非常に楽しいため、Introだけ作った曲、Dropだけ作った曲、8小節だけ作った曲、新しいプリセットを試しただけの曲が大量に増えてしまうことがあります。しかしプロデューサーとして成長するためには、1曲を最後まで完成させる経験が欠かせません。完成させることで初めて、IntroからDropへのつなぎ、ブレイクの長さ、展開、ミックス、マスタリング、音圧、最終的なバランスといった、曲全体に関する問題に向き合うことになるからです。
スタジオモニターだけを信用しない
自分の制作環境では見つけにくい問題を発見するためのリスニング習慣についても触れられています。制作環境では毎日同じスピーカーやヘッドホンで音楽を聴いているため、耳がその環境に慣れてしまいます。
そこでヘッドホン、イヤホン、スマートフォン、小型スピーカー、車、別の部屋など、異なる環境で聴いてみることが推奨されています。すると「ベースが大きすぎる」「ボーカルが小さい」「高音が刺さる」「メロディが聞こえない」といった問題を発見できることがあります。これは単なる音質チェックではなく、自分の制作環境というフィルターを外して、リスナー側から曲を聴くという考え方です。
DTM初心者のための教訓のまとめ
AWAKENDの制作哲学を整理すると、次のようになります。
項目 | 考え方 |
|---|---|
作曲 | まず良い曲を書く |
編曲 | 必要な音だけを選び、それぞれに役割を与える |
音色 | 音色選びそのものがサウンドの品質を決める |
ミックス | 後処理で無理やり直すのではなく、前工程で問題を減らす |
ステレオ | 広げることだけを考えず、中央の存在感を確保する |
空間 | リバーブを使いすぎず、音の明瞭度を維持する |
オートメーション | 音を時間軸で変化させ、楽曲に動きを与える |
制作姿勢 | 新しい曲を始めるより、完成させることを重視する |
リスニング | 複数の再生環境で確認し、リスナーの視点を持つ |
この内容は、「DAWやプラグインはある程度使えるけれど、なぜ自分の曲がプロっぽくならないのか分からない人」に特に向いています。「EQを頑張っているのに音が濁る」「音を重ねても迫力が出ない」「ミックスに時間をかけすぎる」「曲を最後まで完成できない」といった悩みを持つ人には、考え方を見直す良い材料になるはずです。
BGM・映像音楽制作にも通じる考え方
この講座の内容はメロディック・ベースに限らず、EDM、ヒップホップなど、幅広い音楽制作に応用できます。特に興味深いのは、「ミックス技術を増やす」ことよりも「ミックスで直さなくてもいい状態を作る」ことを重視している点です。
音色選びの精度を上げ、不要なレイヤーを削ぎ落とし、曲の構成そのものを適切な順番で組み立てておけば、後工程のミックス・マスタリングにかかる負担そのものが小さくなります。これは制作時間の効率化だけでなく、仕上がりのクオリティにも直結する考え方です。
MASTER SOUNDから:「直さなくていい状態」を一緒に目指す
MASTER SOUNDでミックス・マスタリングをお預かりする際も、素材そのものの状態が仕上がりに大きく影響することを日々実感しています。音色選びや編曲の段階で無理のない状態を作っておくことは、結果的にミックスの自由度を高め、より説得力のある仕上がりにつながります。
「音を重ねても迫力が出ない」「ミックスの前段階で何が問題なのか分からない」という方は、作編曲の時点からご相談いただくことも可能です。曲を完成させるところから、仕上げまで一緒に伴走できればと思います。
資料:登場した人物・レーベルの一覧
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| AWAKEND | ミネソタ拠点のメロディック・ベース系プロデューサー。Seven Lions、ILLENIUM、Au5、Jason Ross、HALIENEらの公式リミックスを手がける。公式サイト:https://www.awakendmusic.com/ |
| Seven Lions | メロディック・ベース/メロディック・ダブステップの代表的アーティスト。2018年に自身のレーベルOphelia Recordsを設立 |
| Ophelia Records | Seven Lionsが設立したレーベル。メロディック・ベース、ダブステップ、トランスなどを扱う |
| ILLENIUM | 感情的なメロディと大規模なエレクトロニック・サウンドを組み合わせるアーティスト。グラミーノミネート歴あり |
| Au5 | メロディック・ダブステップ、トランス、ドラムンベース、アンビエントを横断する電子音楽プロデューサー。楽曲制作コースも展開 |
| Jason Ross | トランスを基盤にメロディック・ベースへ展開してきたプロデューサー。Seven Lionsとのコラボレーションで知られる |
| HALIENE | トランス/メロディック・ベース系ボーカリスト・ソングライター。Armin van Buuren、ILLENIUM、Seven Lionsらとコラボレーション |
本記事は、プロデューサーAWAKENDによる音楽制作・プロデュース講座の紹介内容をもとに、MASTER SOUND編集部が音楽制作者・BGM制作者向けに再構成したものです。







