SoundCloudが目指す「ファン経済」|Fan-Powered RoyaltiesとAI音楽への姿勢

この記事では、音楽ビジネス系ポッドキャスト「The New Music Business」(Ari’s Take)で公開された、SoundCloud CEO Eliah Seton氏へのインタビュー動画を、DTMユーザー向けに日本語に翻訳して解説しています。
SoundCloudが目指す「アーティストとファンを直接つなぐ」プラットフォーム
SoundCloudは、Spotifyとほぼ同時期の2007年前後に設立された音楽サービスです。しかし目指してきた方向性は、当初から少し違っていました。SoundCloud CEOのEliah Seton氏がAri’s Take(The New Music Business)のインタビューで語っているのは、SoundCloudを単なるストリーミングサービスではなく、アーティストとファンを直接つなぐ「双方向のマーケットプレイス」として位置づけているという点です。
5億曲、その大半がUGCという特殊な生態系
インタビューによれば、プラットフォーム上には5億曲以上が存在し、そのうち約4億曲がUGC(ユーザー投稿コンテンツ)だとされています。メジャーレーベルからの正式リリースだけでなく、インディーアーティストの新曲、未完成のデモ、DJセット、実験的な音源までが同じ場所に混在しているのがSoundCloudの特徴です。
「今日のスター」ではなく「明日のスター」を探す場所
Billie EilishやPost Maloneなど、SoundCloudから見出されたアーティストの例が象徴するように、このプラットフォームには新人発掘の文化が根付いています。Seton氏はユーザーを「仮想的なレコードショップでレコードを掘る人(virtual crate diggers)」と表現しており、すでに人気の曲を聴く行動と、まだ無名のアーティストを探す行動が同じ場所で共存している点が、インディー音楽やヒップホップ、DJ文化との相性の良さにつながっています。
収益構造を変える「Fan-Powered Royalties(FPR)」
今回のインタビューで特に重要なテーマが、SoundCloudが独自に導入したFan-Powered Royalties(FPR)という収益分配の仕組みです。
一般的なプロラタ方式との違い
多くのストリーミングサービスで採用されている「プロラタ方式」は、単純化すると次のような流れです。
- サブスク料金や広告収入を一つの大きなプールに集める
- プラットフォーム全体の再生数を集計する
- 各アーティストの再生シェアに応じて収益を分配する
一方FPRでは、「そのファンが実際に誰の曲を聴いたのか」を重視します。あるユーザーがある月にAというアーティストの曲を80%、Bというアーティストの曲を20%聴いていた場合、そのユーザーの支払いも同じ比率でAとBに配分される、という考え方です。SeatonCEOによれば、この方式で支払いを受けているアーティストはすでに半数を超えているとのことです(すべての権利者が採用しているわけではなく、従来型のプロラタ方式を選ぶ権利者も存在します)。
インディー・中堅アーティストに恩恵が出やすい理由
SoundCloudとMIDiA Researchが過去に行った分析では、ユーザー・セントリック型の支払い方式によって、特に中間層のアーティストがより多くの収益を受け取る傾向が見られたと紹介されています。巨大な再生数を持つトップアーティストだけでなく、熱心なファンを持つ中小規模のアーティストにも収益が届きやすくなる、という考え方です。ただし、これは「誰もが必ず収入増になる」という意味ではなく、分配方式が変わればアーティストごとの影響も異なります。
ストリーミング不正対策としての側面
プロラタ方式では、プラットフォーム全体の再生シェアが重要になるため、ボットなどによる不正再生が収益獲得の手段になりやすい構造があります。一方FPRは「誰が誰を聴いたか」という個別の関係を重視するため、不正なパターンを見つけやすいという利点もあるとSeton氏は説明しています。FPRは単にアーティストに優しい制度であるだけでなく、ストリーミング詐欺対策としての意味も持っているわけです。
「配信サービス」から「アーティストの総合プラットフォーム」へ
Get Heard → Get Fans → Get Paid
SoundCloudが掲げているのは、「Get Heard(聴いてもらう)→ Get Fans(ファンを獲得する)→ Get Paid(ファンとの関係から収益を得る)」という一連の流れです。従来、アーティストは作曲、配信、ファン獲得、SNS運用、グッズ販売、ライブ、ファンクラブ運営などを、それぞれ別々のサービスでこなす必要がありました。SoundCloudはこれらを一つのプラットフォームにまとめようとしています。
新曲発見システム「First Fans」
興味深い仕組みが「First Fans」です。新曲がアップロードされると、その曲を好みそうなリスナーにまず届けられます。最後まで聴かれたか、スキップされたか、保存や共有をされたかといった反応をもとに、反応が良ければさらに多くのユーザーへ推薦が広がっていきます。つまり「すでにファンが多いから推薦される」のではなく、「ファンが少なくても、曲自体の評価が高ければ広がる」という設計です。これは、フォロワー数の少ないインディーアーティストにとって重要な意味を持ちます。
ディストリビューションによる収益還元
SoundCloudは音源をSpotifyやApple Musicなど他サービスへ配信するディストリビューション機能も提供しています。対象となる有料クリエイターがこの機能を利用した場合、その収益はクリエイターが保持できるとされています。「SoundCloudで発見される → ファンを獲得する → 他サービスにも配信する → ファンから収益化する」という一連の流れを、一つの経済圏としてつなげる狙いがあります。
「1万人の熱狂的ファン」で生活するという発想
Seton氏が語る中でも興味深いのが、”small but mighty fan base”という考え方です。何百万人ものファンを獲得する必要はなく、数千人から1万人、1万5千人程度の非常に熱心なファンがいて、その人たちが音楽を聴き、ライブに行き、グッズやレコードを買い、限定コンテンツを楽しみ、ファンコミュニティに参加する——そんな状態を作ることを重視するという発想です。
これは「再生数を最大化する」という従来型の音楽ビジネスの発想とは異なり、ファン一人あたりの価値を高めるという方向性です。数十万再生を集めることよりも、少人数でも深く関わってくれるファンを持つことの方が、持続的な音楽活動につながるという考え方とも言えます。
AI音楽に対するSoundCloudの姿勢
音楽制作の民主化としてのAI
インタビュー後半のテーマは生成AI音楽です。SoundCloudはAIを全面的に否定しているわけではありません。楽器の演奏、音楽理論の習得、DAWの購入、スタジオ利用、他ミュージシャンとの協業といった従来のハードルの一部を、AIが大きく下げる可能性があるとして、これを「音楽制作の民主化」として前向きに評価しています。
「AI生成コンテンツは収益化しない」方針とオプトイン学習
一方で、インタビュー時点でのSoundCloudの方針は、AIによって完全に生成されたコンテンツを収益化しないというものです。さらに重要なのが学習データの扱いです。Seton氏は、SoundCloud上のアーティスト作品を、アーティストの知らないところで生成AIモデルの学習に利用することはしないと説明しています。将来的にアーティストが自分の作品をAI学習に提供できる仕組みを導入する場合も、本人が明確に同意する「オプトイン」を前提にするとしています。これは「拒否しない限り利用してよい」というオプトアウト型ではなく、「本人が明確に同意した場合のみ利用する」という考え方で、AI時代の著作権・データ利用を考える上で重要な視点です。
これからの音楽ビジネス:「再生数」から「ファンとの関係」へ
今回のインタビュー全体を一言でまとめると、「再生数を売る時代」から「ファンとの関係を事業化する時代」への移行というテーマになります。
これまでのストリーミング中心のモデルは「曲 → 再生 → ロイヤリティ」というシンプルな流れでした。SoundCloudが目指すモデルは、「曲 → 発見 → ファン化 → コミュニティ → 限定コンテンツ → グッズ → チケット → サブスクリプション → ロイヤリティ」という、より長い経済圏です。特にインディーアーティストにとっては、「何百万再生されたか」よりも「自分の音楽を本当に好きな人が何人いるか」が重要な指標になっていく可能性があります。
MASTER SOUNDが考える、個人クリエイターへの示唆
この考え方は、音楽制作・BGM制作・ビート販売を個人や小規模チームで行う方にとっても、非常に示唆に富んでいます。作品を大量に発表して再生数を稼ぐことだけを目指すのではなく、一つひとつの作品を入口にして、リスナーとの関係を作り、その関係から複数の収益源につなげるという発想は、ストリーミング配信・BGMライセンス・ビート販売のいずれにも応用できる考え方です。
MASTER SOUNDでも、楽曲を「一度売って終わり」にするのではなく、著作権譲渡・商用利用可の明確なライセンス形態や、継続的にお付き合いいただけるミックス・マスタリングのご提供を通じて、長く続く関係づくりを大切にしています。配信やビート販売で「聴かれる」ことの先にある、ファンや取引先との関係づくりまで見据えた音楽活動を考えている方は、ぜひご相談ください。
本記事は、音楽ビジネス系ポッドキャスト「The New Music Business」(Ari’s Take)で公開された、SoundCloud CEO Eliah Seton氏へのインタビュー動画(https://www.youtube.com/watch?v=ji0i4OIgpEs)の内容をもとに、MASTER SOUND編集部が独自にまとめたものです。







